1982年にコンパクトディスク(CD)が登場して以来、これにレコード盤が駆逐されてしまい、随分と年月が経っています。
ところがそのCDも、音源のダウンロード販売が始まると人気が下火となり、と同時に、かつてのレコードの需要が再び伸びて来ました。
その理由は、ダウンロード音源は気軽に聴けるのだけど、あまりに再生がイージーで面白みがありません。
反面、レコードは一通りの儀式が必要なことから、これがワクワク感を高揚させると言うのです。
確かにレコード盤は針を下す前に、クリーニングをしなくちゃいけなくて面倒。
しかも聴く時は、慎重に針を下ろさないと針や盤を痛めるので、再生直前はちょっとドキドキしたりもします。
そうやって無事に音が鳴った時は、「ヤッター!」と言う気分になりますからね。
そんなことから徐々にレコードが売れ始め、ここ数年前からオーディオメーカー各社から、新しいレコードプレーヤーが登場しつつあります。
レコードカートリッジで有名なオーディオテクニカからも、こんなモデルが新しく登場しました。
何と、かつてオーディオブーム時代に主流だった、ダイレクトドライブ(DD)方式を採用した「AT-LP120XBT-USB」です。
DD方式と言うだけでも今は注目されるのに、USBで音源をデジタル出力できる上に、Bluetoothでワイヤレス接続もできるんですよ。
こんなワクワクドキドキするAT-LP120XBT-USBとは、どんな魅力を秘めているのかユーザーレビューも交え、音質や使い心地を評価してみたいと思います。
オーディオテクニカ AT-LP120XBT-USBは最初の使用時にセットアップが必要
まずはメーカー提供の動画で、AT-LP120XBT-USBをご覧いただきましょう。
これで、おおまかな商品概要を知ることができますよ。
本機はレコードプレーヤーとしてコンパクトなボディで、プラッター(ターンテーブル)のモーターに、高精度なDCモーターを採用。
DCモーターはトルクが強いため、立ち上がりが早いのがメリットです。
そもそもレコード盤と同じ速度で回るこの方式のプレーヤーは、全体的にはメカニズムがシンプルで故障しにくく、耐久性にも優れています。
現在主流のベルトドライブ(BD)方式プレーヤーは、故障しても修理しやすいのですが、使っているベルトは消耗品なので、数年に1度交換しないといけないのがデメリット。
その点、DD方式プレーヤーは基本的にメンテナンスが必要なく、壊れさえしなければ、ずっと何も手を掛けなくてもOKなのが良いですね。
本機の使用方法は、基本的に自分の手でトーンアームを上下する、フルマニュアルでの操作になります。
レコードが終了しても自動的にアームは戻らないので、自分で戻さないといけません。
ただしアームリフトが付いているので、これを使ってアームの上げ下げを行います。
時々先端のシェルを指で持ち針を下す人がいますが、下手をすればレコードや針を傷付けるので、必ずアームリフトを使いましょう。
レコードの扱いに詳しくない若い方やオーディオ初心者は、特に注意が必要ですね。
また、初めて本体を箱から開封した際はセットアップが必要で、プラッターやアームを本体に設置しカートリッジを取り付けたら、アームのバランス・針圧・アンチスケーティングの調整を行います。
取扱説明書通りに行えば難しくはないので、楽しみながらやりましょう。
それとは別にメーカーでは、本機のセットアップ用の動画を提供しています。
こちらをご覧になっても、儀式のやり方を理解できるでしょう。
オーディオテクニカ AT-LP120XBT-USBは多機能ながら魅力的な価格だ
AT-LP120XBT-USBにはオーディオテクニカの製品らしく、初めからAT-VM95Eと言う品番のカートリッジが付いているので、本体を購入するだけでレコード再生ができます。
このカートリッジは初心者用として手頃な価格のモデルで、音楽のジャンルを選ばないクセのない音質が特徴。
立体感には欠けますが、低音から高音まで良く伸びるので、最初の1本として無難なカートリッジと言えるでしょう。
また、本機はダイレクトドライブ(DD)プレーヤーだけあり、左側電源スイッチノブにストロボライトが装備され、アーム横のスライダーを動かして回転数の微調整が可能。
これがBDとは違う、DDの証(あかし)みたいな装備品なんですね。
そして針を下す際の粋な装備として、ターゲットライトがあります。
このライトのおかげで暗い部屋での使用でも、確実にレコードの溝を見分けることができますよ。
ではここから、本機の特徴と言える機能を紹介して行きましょう。
先ほどの動画にもあったように本機は、レコード再生に必要なフォノイコライザーを内蔵しています。
お手持ちのアンプにフォノイコライザーがなくても、外部入力端子があればそこへケーブルをつなぎ、そのままレコードを聴くことができます。
もしアンプを持っていなくても、アンプ内蔵のアクティブスピーカーがあれば、それで同じようにレコードが聴けちゃうんです。
なるべく予算を抑えてレコードを楽しみたいのなら、この組み合わせでも良いですね。
そして、さらにUSB端子もありデジタル出力できるので、PCと組み合わせてレコード鑑賞ができます。
ソフトウェアは特に指定されていませんから、Audacity等、一般的なフリーソフト使うと良いでしょう。
このソフトは聴くだけでなく録音もできますから、データをコピーしてスマホやウォークマンで再生可能です。
それだけではありません。
本機はBluetoothにも対応しており、ワイヤレスでPCやスマホ等と接続し手軽に再生可能なので、デジタル世代の人にも抵抗なく受け入れやすくなっています。
この機能には、非常に魅力があると思いませんか?
これだけの先進機能がありながら、価格が税込で46.200円なのは、安い買い物と言わざるを得ませんね。
ただし本機は家電店など、実店舗では販売されておりません。
ネット販売限定の、オーディオテクニカ直販モデルなので、注意する必要があります。
オーディオテクニカ AT-LP120XBT-USBはSL-1200MK7と同等品?
AT-LP120XBT-USBをじっくり観察していると、あることに気付きます。
それは、往年の名機テクニクスSL-1200の後継機である、SL-1200MK7にソックリなことです。
デザインはもちろん、大きさも両機はほぼ同じ。
見た目で違うのは、トーンアームとダストカバー、それから足元にある4つのインシュレーターくらい。
もしかして本機とSL-1200MK7は同等品?と一瞬思ってしまいますが、しかし本機の価格は46.200円(税込)なのに対し、SL-1200MK7は120.000円(税込)。
倍以上価格が異なります。
どこが違うのかと調べたところ、案の定モーターの性能やボディ全体の品質が違っていました。
本機の方が作りが安っぽい感じだし、プラッターの性能で重要なワウ・フラッター(回転ムラ)が、SL-1200MK7は究極の0.025%。
対してAT-LP120XBT-USBは、良くできたベルトドライブプレーヤーと同等の0.2%。
起動トルクにしてもSL-1200MK7は1.8kg・㎝もあるのに、本機は1.0kg・cmと明らかに劣っています。
モーターはどちらもDCサーボモーターを採用しているけれど、ものは結構違っているんですね。
トーンアームにしてもインシュレーターにしても、本機の方が普及品タイプであることは、実物を見ればすぐに分かります。
それでもデザインはまるで同一だし、品番も本機には “120” と言う数字を使っている・・・。
これはどういうことかと言えば、私の考えでは恐らくAT-LP120XBT-USBは、テクニクスを展開するパナソニックの製造なんだろうと思うんです。
私は以前 “『レコードプレーヤードライブ方式』初心者ならベルトドライブ・ダイレクトドライブ・アイドラードライブを覚えて” と言う記事を書きました。
この記事を読めば分かりますが、1970年代~1980年代のオーディオブームだった時代、日本のオーディオメーカーはこぞって、DDプレーヤーをラインナップしていました。
ところが音源の主流がレコードからCDに取って代わり、さらにオーディオブームが去って、レコードプレーヤーの出荷台数が極端に減ってしまいました。
DDモーターは技術的に製造が難しく、オーディオメーカーは皆、製造を専門のモーターメーカーに依頼していたのです。
そのため、営業的に成り立たなくなったモーターメーカーが、次々に製造を止めてしまい、仕方なくオーディオメーカーは、製造が容易でメンテも難しくないBD方式へ変更してしまったのです。
ただ、DD方式の開発元のテクニクスだけは、今も一貫してDDにこだわり製造を続けています。
なので、本来レコードプレーヤーメーカーではないオーディオテクニカは、DD方式のプレーヤーを販売するにあたり、きっとテクニクスに製造を依頼したのでしょう。
それに故障した際のサポートも、テクニクスに任せることで、ユーザーからのサポート依頼に、自信を持って受け入れられるハズです。
とは言え、テクニクスと全く同じ製品を出しただけなら、売り上げは本家に及ばないに違いありません。
そこでDDのメリットを生かしたまま、ある程度性能を落とすことでコストダウンし、さらにテクニクス製品にない付加価値を加え、登場させたのが本機ではないでしょうか。
結果的に本機AT-LP120XBT-USBは、SL-1200MK7の半額以下の価格でありながら、フォノイコライザー搭載・Bluetooth対応・USB出力を可能にし、新世代の製品として登場したのでしょうね。
さらにカートリッジメーカーとして、自前のカートリッジまで付属させ、自社の誇りを保っていると思うのです。
では次に、AT-LP120XBT-USBの使い心地はどんなものでしょうか?
実際に愛用している、ユーザーの皆さんのレビューを集めましたので、次頁でご覧いただくことにしましょう。
オーディオテクニカ AT-LP120XBT-USBのユーザーレビュー
★「レコードブーム到来でプレーヤーが欲しくなり、色々探していた。予算5万円前後。今回購入したレコードプレーヤーは、商品評価での☆の数のとおり(5段階中4)、全て満足の商品だった。Bluetooth対応、ワイヤレス接続、USB接続等、今の時代にマッチしておりGoodだ。カートリッジ交換が出来るのも良い。ブラック色なのも良い。末永く愛用したい。」
★「付属カートリッジは使ってはいないが、各種手持ちカートリッジと外部昇圧トランスで聴く限り心地良く聴ける。内蔵PHONOアンプ(フォノイコライザー)はやや軽めの音になるが、悪いものではない。PCに取り込んだ音も、本来のレコード音質を保っている。機器の機能についてオートストップまで欲張らないものの、オートリフトアップは欲しかったと思う。但し前述の通りアナログからデジタル化へは非常に便利で、80歳直前の私の大きな楽しみだ。購入して良かったと思う。」
★「自前のテクニクス製SL-1200MK3Dとソックリなので購入。値段が安価な分残念な点はアームを上下する機能で、レバーを上げるとアームがバウンドし、下げると少し右側へ針が下りる。針圧を量る時にアームを水平にすると、右側へ寄って来る。針圧調整後にアンチスケーティングを合わせて、ターンテーブルの上にキャップ付きカートリッジを置くと、アームが右側へ移動する。ボタン類の操作感触がイマイチ。軽量は仕方ない。他にレコードプレーヤーを2台所有しているけど、上記の様な不具合は無い。」
★「音楽を普通にサブスクメインでDAC有りの音をオーディオしていたが、レコードの音がこんなに良いなんて思っていなかったので、衝撃と感動ともう訳分からなくなってしまった(笑)。音の質とか音の広さとか奥行きとか、初心者の自分があれこれ言えるほどの自信がないので控えるが、兎に角!感動だ(笑)。」
オーディオテクニカ AT-LP120XBT-USBの評価・まとめ
ここからは以上を踏まえ、私がAT-LP120XBT-USBを評価してまとめてみましょう。
かつてのオーディオブームが去って、レコードの生産量も少なくなり、レコードプレーヤーの銘柄も減ったと思ったら、いつの間にかドライブ方式の主流がBD方式になってしまいました。
それをオーディオテクニカでは、新しいレコードプレーヤーを販売するにあたって、DD方式を採用するだけでなく、時代に合わせてUSB出力を可能にし、Bluetoothにも対応させたのです。
それが本機と言う訳ですが、いくら高機能・高性能であっても価格が高いのであれば、今の時代、多数普及させるのは難しいでしょう。
で思い切って、オーディオ初心者でも手に入れやすいプライスとした、オーディオテクニカの姿勢には、頭が下がる思いがしますね。
その代わり安っぽい仕上がりになるなど、いくつかコストダウンが表面上に出ていますが、コストパフォーマンスの高さからすれば、それは目をつぶることができるものです。
これがSL-1200MK7のように10万円を超える価格であれば、ある程度お金持ちのベテラン向けモデルになるに違いありません。
そうなれば、USB出力やBluetooth対応などの機能は、このクラスを選ぶユーザーは使わないので、宝の持ち腐れになってしまうでしょう。
そう言った意味では、本機を5万円以下の価格にすることは、営業的に必須要素だったんでしょうね。
結果、本機は見事に機能的に性能的に、そして価格的にも、多くのユーザーを取り込める製品になっていると思います。
しばらくの間、アナログレコードから遠ざかっていたベテランのファンや、これからレコードに親しんでみたい初心者、どちらにもおすすめできるプレーヤーです。
本機は、オーディオテクニカのダイレクト直販のみの販売なので、どこのネット窓口で購入しても価格は同じ。
しかし、最初から十分に安く抑えられたものになっているので、提示されたままの価格で購入しても、お得感はタップリ得られるのではないでしょうか?
または
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