今、アナログレコードが人気です。
1982年にCD(コンパクトディスク)が登場して以来、レコードの売り上げが徐々に低下。
音が悪いからとこの世から消えると思われた音楽メディアが、ある出来事を境に見直され、その後、音楽配信サービスの始まりと共に売り上げが復活。
かつてのレコード店の賑わいが、また見られるようになったのです。
その理由と共に「アナログレコードが持つ魅力」に付いて、今回迫ってみようと思います。
アナログレコードの復活理由とその音はなぜ魅力的に聞こえるのか?
前述のように1982年に初めてCDアルバルが発売され、4年後の1986年にその出荷数がレコードを追い抜くことになりました。
なぜ、CDの出荷数がわずか4年でレコードの出荷数を抜いてしまったのか、あなたはご存知でしょうか?
それはCDはコンパクトで扱いやすく、プレーヤーにセットすれば、誰でも簡単に再生できるように設計されたからです。
レコード会社やオーディオメーカーは、デジタル音源がアナログと違い音が良いからと言いますが、これは半分正解で半分は間違いでしょう。
だって音楽を聴くリスナーが、皆、オーディオマニアと言う訳ではありません。
パッと聴く限りCDとレコードの音の違いなんて、普通の人では分からないのです。
専用のプレーヤーさえ用意すれば誰でも簡単に扱えるし、持ち運びも楽でメンテナンスもないに等しいんです。
楽して音楽を聴くことができるのだったら、よほど音質が悪くない限り、CDの方に目を奪われてしまうでしょう。
これが音楽メディアの主役が、レコードからCDに移った最も大きな原因なのです。
それを強力に牽引したメーカーの代表が、日本のソニーとオランダのフィリップスです。
で、実際の音を比較すると測定器を使えばCDの方が正確で、音質そのものも良いと定義されました。
しかし私たち人間の耳は、アナログ的に作られています。
測定器を使った正確な音よりも、ややあいまいな音の方が快適な音に聞こえるんですね。
私たちが普段聞いている音って直接音ばかりでなく、反響音やノイズや歪も聞いており、これが本当の音と認識しています。
レコードから再生される音と言うのは、これに近いんです。
一方CDの音は言ってみれば、反響音やノイズの少ない直接音を聞いているようなもの。
なので良く良くじっくりと聞き比べれば、レコードの方がリアルで自然な音と感じる訳なのです。
私は時々、あるオーディオマニアが集うクラブに出入りしています。
クラブでは、ずらり並んだオーディオコンポの音を聞かせてもらうのですが、同じアルバムでもレコードの方がボーカルが艶やかで、スピーカーの近くで歌っているかのように聞こえるんです。
対してCDの方はやや平坦で、同じ声が少し引っ込んで聞こえるんですよ。
これは本当に驚きます。
ただしプチプチと発するスクラッチノイズや、スーッと耳に届くヒスノイズは全然聞こえなくて、この点ではCDの方が優秀です。
でもライブ感とかウッドベースの響きなんかは、やっぱりレコードの方が上手(うわて)に感じます。
これらが、レコードの音の方が魅力的に聞こえるゆえんなんですね。
さて話が前後してしまいますが、欧米ではこれに一早く気付いた音楽ファンにより、レコードの人気を復活させました。
ところが日本では、少し違ったキッカケがあったのです。
それは2011年に起こった東日本大震災。
これは唯一日本でレコードプレス工場を持つ、東洋化成株式会社の技術者の方のお話ですが、震災前、福島や千葉には多くのCD製造工場があったそうです。
これらの工場が震災で操業がストップし、CDソフトの供給が一時できなくなりました。
そこで供給を補うために、東洋化成製のレコードで多くをまかなったとのこと。
出典:東洋化成株式会社
このおかげで音楽ファンは再びレコードを手にし、その音を見直す機会を持つことになったんだそうです。
現在は、操作の楽なCDよりもさらに再生の手間がいらない、ストリーミングを含むネットからの音楽配信も人気になっています。
ネット配信音源は通常、音質がCDを超えることはないのですが、ハイレゾ音源の技術も開発され支持を受けています。
ハイレゾはCDに記録されていない、可聴域を超える20kHz以上のデータが含まれているのです。
これは、レコードとほぼ同じ音質で楽しめることで売れつつありますね。
でも、だったら手で掴めないデータを所有するより、しっかり手で触れるレコードはジャケットがアートになって面白いと、だんだんレコードの方を好む傾向になって来ました。
特にアナログレコードが一般的だった時代を知らない、若い世代の方たちに人気が高まっています。
アナログレコードの欠点はむしろリスナーにはメリットになっている
CDを再生する操作は容易です。
今さら言うまでもなく、CDプレーヤーのトレーを開けディスクをセットしたら、閉じて再生ボタンを押すだけ。
またネットからのダウンロード音楽は、データを選んで曲をタップするだけで、すぐに演奏が始まります。
どちらも、何かをしながらでも操作することができますね。
ところがアナログレコードは、音を出すためにはいくつかの儀式が必要です。
レコードをターンテーブルにセットしたら回転させ、トーンアームをレコードに持って行き、慎重に針を落とさなければなりません。
レコードの演奏が片面終了したらオートリターンプレーヤーを除き、針を持ち上げアームを戻す必要があります。
そしてレコードをひっくり返して、今度は裏面の演奏です。
それに曲を順に演奏するならともかく、途中で1曲飛ばそうとするなら、その操作がまた厄介です。
演奏中に聞こえるスクラッチノイズを防ぐため、前もってレコード表面を綺麗にしておかないといけません。
最初にトーンアームにカートリッジを取り付けたら、針圧調整を行う必要もあります。
CDなんかは演奏中ほったらかしにしても、最後は自動的に動作が止まるので非常に楽ですよね。
レコードの場合マニュアルプレーヤーだったら、自分で最後は動作を止めないといつまでもレコードが回りっぱなしで、そのままだと針とレコードを痛めます。
演奏を聴くのに手間が掛かるのがレコードの欠点ですが、その代わり、じっくりスピーカーと向き合って聴くスタイルを取ることになります。
真剣に音を楽しむことで、レコードが持つポテンシャルを十分に堪能でき、結果、レコードの音の良さが感じられる訳です。
加えて、オーディオコンポとしてレコードを再生させるためには、いくつもの機材を用意しないといけません。
アンプとスピーカーをつなぐのはCDも同じですが、レコードを聴くには、レコードプレーヤーとアンプとの間にイコライザーが必要です。
(イコライザー内蔵のプレーヤーかアンプでも構いませんが)
レコードには高音を強くして、低音を抑えたアンバランスな音で収録されており、これをまともな音に戻すのがイコライザーの役目。
また収録信号が微弱なために、ある程度音を増幅する(ゲインを上げると言う)役目もあります。
それから、先に述べたレコードの溝から音をピックアップする針の付いた、カートリッジもトーンアームの先に装着しておかないといけません。
カートリッジは大まかに、MM(ムービングマグネット)型とMC(ムービングコイル)型に分かれますが、これが製品によって随分音質が違うので面白いんです。
さらにMC型の出力はより小さいので、昇圧トランスと呼ぶアンプも必要になります。
カートリッジをいくつも持つことで音の違いが楽しめるのは、レコードならではのものですね。
CDの場合、CDプレーヤーとアンプとの間に、外付けDACをつなぎ音の変化を楽しむことも可能ですがその音質差は小さく、ディスクによって別のものと取り換えて楽しむのは現実的ではありません。
なので、手軽に音の変化が味わえるレコードは、CDやダウンロード音源と違いとても楽しいのです。
再生操作が面倒なことがレコードの欠点ですが、色々と手を掛けて自分の音を作れることが、今やリスナーに取って逆にメリットになっているのです。
レコードの人気はやがてCDをも上回る日がやって来る?
音が良いと見直され、人気が復活しつつあるアナログレコード。
でも、レコード相当の音質を再生できるハイレゾ音源もあり、手軽に高音質を楽しめる音楽ソフトとして評価されています。
また実は、CDでもハイレゾ音源と同等の音質を再生できるMQA-CDが既にあり、話題になっているんです。
それなのに、なぜアナログレコードばかりが売れているのでしょう?
理由は恐らく、先述の通り手間を掛けて再生する過程において、自分好みの音に仕立てることができるからでしょう。
さらにレコードは再生する様子を目で見ることが可能で、音が鳴っているのが実感でき、大きなジャケットはアート感覚で楽しめます。
ハイレゾ音源は形がなく指で掴めないので、所有を満たすものがありません。
MQA-CDはと言うと、形こそあれジャケットは小さいし、別途に専用のプレーヤーかDACが必要で現在はとても高価です。
そんなところからも、アナログレコードに人気が集まっているのでしょうね。
長い間レコードが製造できるメーカーは、日本では東洋化成1社のみでした。
ところが、2018年からソニーもプレスを再開して現在はさらにもう1社増え、全部で3社レコードが作れるようになりました。
CDの人気が下火になっている今後は、益々レコードのシェアが高まり、出荷高がCDを超える日がやって来るかも知れませんね。
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